AI時代の信頼を築く「伝わる日本語」の技術
日本社会において多文化共生が進む今、情報の受け手に合わせた「言葉の再設計」が求められています。私は研究グループと共に、日本語を母語としない人々にも届く「日日辞典」の研究を通じ、約4,000語の「定義語彙リスト」を構築してきました。一般的な国語辞典のように類義語による言い換えで説明を完結させるのではなく、厳選された語彙で本質を突く。このプロセスが、確実な意思疎通の土台となります。
具体的な実践例として「介抱」を挙げれば、「病人や酔っ払いを助けて、一時的に世話をすること」と定義します。このように「一時的」「病人や酔っ払い」という要素を明示することで、高齢者などを対象とする継続的な「介護」との概念的な混同を避けることができます。
こうした「定義の技術」は、専門情報を図表やテキストでわかりやすく伝える「テクニカルコミュニケーション(TC)」の知見に基づいています。TCは取扱説明書やユーザーインターフェースなど、実務において専門用語をどう扱い、どう定義するかを突き詰める学問であり、そのノウハウはあらゆる情報の伝達に応用可能です。
私はこれまで、大学生や社会人を対象に、こうした「話す技術・書く技術」を磨くための教科書や問題集を書いてきました。あえて不適切な文章や会話例を提示し、どこが悪いかを考えさせるトレーニングは、実社会でのコミュニケーション改善にも直結します。
特に、生成AIの普及により誰もが容易に文書を作成できるようになった現在、ドキュメントの信頼性が相対的に低下し、逆に「対面で話すこと」の重要性が改めて見直される可能性が高まっています。
文書が溢れる時代だからこそ、目の前の相手に合わせて「わかりやすく話す」技術が、その人の信頼性を担保する重要な指標となるでしょう。プレインランゲージは単なる言葉の言い換えテクニックではありません。それは、AI時代において人間同士が確かな信頼を築き、情報を正しく共有するための、極めて現代的かつ必須の「対話技術」なのです。
