公務の現場に潜むコミュニケーションの壁: プレインランゲージへの誤解と組織を変えるトップの力
私はカナダ食品検査庁でコミュニケーション・アドバイザーを務めています。同庁は食品の安全や動植物の健全性を管轄しており、私はそこで文章の作成や編集、特に「プレインランゲージ」を用いたコミュニケーションの推進に取り組んでいます。
今回は、カナダ政府におけるプレインランゲージの現状と、現場で直面しているリアルな課題についてお話ししたいと思います。
カナダ政府の取り組みと現状
カナダ政府には、すべての省庁や機関が従うべきコミュニケーション・ポリシーがあり、その中にプレインランゲージに関する規定が含まれています。また、政府のスタイルガイドは最近、ISOのプレインランゲージ規格に合わせる形で改訂されました。さらに『プレインランゲージ・スタンダード2』という171ページに及ぶ文書も無料で公開されています(正直に言うと、長すぎるので私は使っていませんが)。
司法の分野でも前進があります。カナダ最高裁判所は、プレインランゲージの強力な支持者であるリチャード・ワグナー最高裁長官の主導のもと、判決のプレインランゲージ版要約を公開しています。
しかし、こうした政府全体の取り組みがある一方で、その効果がどの程度出ているかについては、組織ごとにかなり差があるのが実情です。
プレインランゲージへの根強い誤解
一番の問題は、多くの人が「プレインランゲージとは何か」を根本的に誤解していることです。「内容のレベルを落とすこと」「短い単語だけを使うこと」「中学1年生レベルの読みやすさを目指すこと」だと思われがちです。
しかし、現場で情報がわかりにくくなっている理由は専門用語そのものではないため、単語を短くしても問題はほとんど解決しません。
情報が伝わらなくなる「3つの壁」
私が日々の業務で直面しているのは、主に以下の3つの問題です。
- 「関連性」の欠如と構造化の不足
『自分たちが何を言いたいか』ばかりに意識が向いていて、『読者が何を知りたいか』を考えていないため、本当に必要な情報が出てきません。とくに科学者は重要な背景情報をたくさん入れたがりますが、読者にとっては不要なことが多いのです。また、文章の並びが論理的でなく、本当に大事な情報が文や段落の真ん中に埋もれてしまっていることがよくあります。 - 「賢く見られたい」心理と「知識の呪い」
テーマの難しさ以上に、人間の心理が大きな壁になります。「専門家としてちゃんとしているように見られたい」「(特に新しいポジションに就いたときに)自分の力を証明したい」という気持ちから、文章をあえて難しくしてしまうのです。また、専門家は知りすぎているがゆえに「知識の呪い」にかかっています。読者はその情報を知らないという大前提をすっかり忘れ、「こんなのはみんな知っているはず」と思い込んで説明を省いてしまうのです。 - 「伝統」への固執
特に法律家などは、「形式ばった書き方にしないと法律として受け止めてもらえない」と強く主張します。実際にはそんなことはないと示す研究はいくらでもあるのですが、私が弁護士ではないため、なかなか耳を傾けてもらいにくいという悩みがあります。
真の変革に必要なもの
こうした課題を乗り越えるため、下から働きかけるだけではなかなかうまくいきません。プレインランゲージを本気で進めるには、上層部の深い理解と強力なサポート(トップダウン)が不可欠です。
かつて、私の上長がプレインランゲージに強い関心を持ち、私の専門性を尊重して仕事を任せてくれた時期がありました。上の立場の人が「変えよう」と本気で思ってくれるだけで、状況は大きく変わるのです。
