ビジネスでは「美しい」ではなく「伝わる」英語が大事
目的が明確になれば、人は前に進める
来日して最初に驚いたのが、日本人の英語コンプレックスでした。世界に名だたる経済大国で、学校で十分な英語教育が行われているのに、皆が口を揃えて「英語ができない」と言うのです。しかし、英会話学校の講師として「できない」人にレッスンで接していくうちに、不足しているのは英語力ではなく、コミュニケーション力だとわかりました。「文法が間違っているかも」といった心配が先に立つようですが、アクションを起こさなければコミュニケーションは生まれません。間違ってもよいから自分の意見を言う。ぜひ思い切って、最初の1 歩を踏み出してほしいです。
もう1つ驚いたことが、英語検定などテスト対策の本が山のように出ていることです。検定そのものは、よく考えられた試験だと思います。ただし、テストの役割は、自分の目標に向かって実力をつけていく過程で、進行度をチェックすること。テストの得点や資格の取得を目的とするのは本末転倒です。何かに取り組むうえで最も大切なのは、何をしたいのか、目的を明確にすることだと思います。
相手が理解できるかどうかは、伝える側の責任
企業や社会のグローバル化が進み、ビジネスにおけるコミュニケーションの在り方が問われるようになっています。トップダウン型の会社で、特定の人が決定権を握り、自由に意見を言えない環境では、些細なことが大きな問題に発展しかねません。最近相次いだ不正問題でも、ルール違反を知っていた人、それを報告しようとした人はいたはずで、コミュニケーションの不足や阻害が問題をより大きくしたのでしょう。
日本の「ダイバーシティ」では、採用や働き方に焦点が当てられていますが、社員の考えや意見にも「ダイバーシティ」を浸透させる必要があると思います。最終的に同じ決定になったとしても、そこに至る過程でどれだけ多様な意見が出たか、議論を重ねたかによって、納得の度合いも変わってくるからです。発信した情報が相手に伝わるかどうかは伝える側の責任であり、本当に理解してもらえたかどうかの確認も、説明責任に含まれています。
ビジネスにおけるコミュニケーションの目的は、美しい文章や完成度の高い文章を書くことではなく、内容を伝え、理解してもらうことです。ですから、多くの人に効率よく、わかりやすく伝えようとすれば、当然ながら文章もプレインでシンプル、そしてダイレクトな表現になるのは当然だと思います。
出典:『伝わる短い英語』著:浅井満知子 東洋経済新報社