2026.01.27

プレインランゲージISO規格

山田 肇さま
(特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム理事長/工学博士/東洋大学名誉教授 /JAPL理事)

編著「情報アクセシビリティ:やさしい情報社会に向けて」(NTT出版)など著書多数。

山田 肇さま<br>(特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム理事長/工学博士/東洋大学名誉教授 /JAPL理事)

Q:プレインランゲージについて ISO で国際標準化が進行していると聞きました。そもそも
ISO とはどんな組織ですか。

ISO は、スイスのジュネーブに本部を置く、1947 設立の NGO です。組織名 International Organization for Standardization の略称が ISO で、日本語では「国際標準化機構」と言います。国際的な取引をスムーズにするために、製品やサービスに関して「世界中で同じ品質、同じレベルのものを提供できるようにしましょう」という基準が、ISO 標準です。非常口のマーク(ISO 7010)や磁気カードのサイズ(ISO/IEC 7810)、ネジ(ISO 68)といった、製品を対象とする「モノ規格」を作成しています。それに加えて、組織の品質活動や環境活動を管理するための仕組み、マネジメントシステム)についても ISO 標準が制定され、世界中で利用されています。

Q:ISO の中のどの組織がプレインランゲージの国際標準化を手掛けていますか。

ISO は技術分野ごとにそれぞれ技術委員会 Technical Committee を組織しています。そのうちの TC 37 は Language and terminology、つまり「言語及び専門用語」を扱う技術委員会です。この TC 37 でプレインランゲージの国際標準化が進められています。TC 37 には世界の 65 か国が参加しています。

Q:今までにプレインランゲージについてどんなものが出版されていますか。

最初の標準は 2023 年に出版されました。誕生した標準は ISO 24495-1 Plain language — Part 1: Governing principles and guidelines というものです。ISO では標準それぞれに番号を付けており、24495 というのがプレインランゲージ国際標準の番号で
す。実際には、何パートにも分かれて、標準が作成されています。そこで、24495 のうしろに「ハイフン 1」とつけて、「パート 1」「第一部」だと示しています。パート 1 にはプレインランゲージの主導原則が記載されています。

Q:ISO 24495-1 についてもう少し詳しく教えてください。

はい、この標準は、まずはその文書は誰のために書くのかということを考えなさいと指示しています。この「誰」のことをパート1では「読者」と表現しています。読者が一般国民であるときと、先端医療の研究者である場合とでは、文書の難しさが大きく変わるはずです。だから、研究者向きの文書を国民に提供しても、国民は理解できません。それが、読者を想定し手文
書を作成するべきという原則です。そのうえで、読者は必要とする情報を入手できる。読者は必要とする情報を容易に見つけられる。読者は見つけた情報を理解できる。そして、読者はその情報が使いやすい。という四つの原則に沿って文書を作成するように求めています。英語では、relevant, findable,understandable, usable です。

Q:わが国には「やさしい日本語」という取り組みがあり、地方公共団体などが取り入れて
います。やさしい日本語とプレインランゲージはどこが違うのですか。

プレインランゲージの国際標準が求めるのは、relevant, findable, understandable,usable です。やさしい日本語は主対象の外国生まれの人たちにとってunderstandableですが、relevant, findable, usable とは限りません。やさしい日本語の範囲を超えて、外国生まれの人たちにとって必要な情報が掲載されているのか、その情報は容易に見つけられるのか、その情報は利用できるのか、対応しようというのがプレインランゲージの主導原理です。

Q:それではプレインランゲージの主導原理はわが国でどのように利用できますか。

文化審議会が2022年に公用文作成の考え方という建議を行い、政府はこれを受け入れ、閣議決定しました。日本政府の公用文は建議の考え方で作成されています。建議は、読み手とのコミュニケーションとして捉えると、文書の目的や種類に応じて考える、を
公用文作成の在り方の基本だとしています。プレインランゲージ国際標準は、読み手とのコミュニケーションとして捉えると、文書の目的や種類に応じて考える、の両方について、より具体的に作成手法を提供します。したがって、プレインランゲージ国際標準は、文化審議会の建議を補完する、より具体的な資料として活用できます。

Q:産業界でも利用できますか。

はい、産業界でも利用できます。米国の証券取引所に上場している企業は、投資家情報をプレインランゲージ、英語ですのでプレインイングリッシュで公開するという義務が課せられています。東京証券取引所は投資家情報を日本語と英語で同時に開示するように求めています。二つの要請に対応するには、日本語の投資家情報をプレインランゲージ原則、日本語ですのでプレインジャパニーズに沿って記載し、それを利用してプレインイングリッシュで英語版の投資家情報を作成するのが適切です。全く違い分野ですが、さまざま製品の取扱説明書についても、プレインランゲージの主導原則が適用できます。製品の使い方を知りたいという国民利用者の期待に沿った文書を作成する必要があるからです。利用者が必要とする情報が記載され、その情報が容易に見つけら
れ、理解でき、利用できれば、製品の能力が最大限発揮されます。利用者の満足度が向上して、その製品はヒットするでしょう。

Q:ISOではプレインランゲージについて、ほかにも国際標準化を進めていますか。

はい、ISO 24495-2、つまりパート2が2025年に出版されました。この標準はLegal communication について扱っています。不動産を購入する際に重要事項説明を受けることがありますね。その際にローンを契約すると、これについても重要事項説明を受けることになります。重要事項説明というのは、不動産購入契約やローン契約について、消費者がきちんと理解してもらおうという配慮から設けられた仕組みです。それでは、重要事項説明を聞いて理解できましたか。それとも説明は聞き流して、ともかく署名捺印して済ましていますか。不動産購入契約やローン契約といった法的義務を伴う契約に関わるコミュニケーションは消費者にとってrelevant, findable, understandable, usable である必要があります。そのことについて規定しているのが、プレインランゲージの国際標準パート2ですので、パート2を利用すれば重要事項説明が改善され、単なる儀式ではなくなります。

Q:ほかにもありますか。

はい、24495-3、つまりパート3が誕生間近で、2026年中に出版されます。タイトルはScience writing、科学技術に関する記述です。科学技術の進歩は急激です。しかし人々の中にはそれについていけない人もいます。ワクチンが怖い、AIが人を支配する。そんな誤解を避けるためには、科学技術についてプレインランゲージ原則に沿った記述を行い、説明しなければなりません。パート 3 は、この目的のために作成されています。

Q:どうすれば、そのような活動に参加できますか。情報が手に入りますか。

ISO TC 37 の活動について、日本では、情報科学技術協会が対応しています。その下で、プレインランゲージに関わる部分について、一般社団法人の日本プレインランゲージ協会が組織として取り組んでいます。みなさまもぜひ日本プレインランゲージ協会にご参加ください。協会からプレインランゲージ国際標準化の動向をお伝えします。より積極的に国際活動に直接参加したいという方も歓迎します。