2023.09.22

米国におけるプレインランゲージのメリット

アネッタ・L・チークさま
(the Chair of the Standards Committee of the International Plain Language Federation, the Board of Clarity International)

アリゾナ大学で人類学の博士号を取得。米国連邦政府に25年間勤務し、主に規制の策定や施行に従事。2003年の設立から2014年6月まで、Center for Plain Languageの会長を務め、2010年の平易記載法成立に尽力。現在はClarity Internationalのボードメンバーとして活動。ISOでプレインランゲージの規格開発に携わり、国際プレインランゲージ連盟の規格委員会の会長も務める。

アネッタ・L・チークさま<br>(the Chair of the Standards Committee of the International Plain Language Federation, the Board of Clarity International)

米国における現代のプレインランゲージへの取り組みは、1990年代初頭に連邦政府で始まりました。その先駆けの一つとなったのは退役軍人省(VBA)であり、すぐに中小企業庁も後に続きました。やがて他の多くの機関がこの流れに乗り、民間企業にもその波が広がっていきました。2010年には「平易記載法(Plain Writing法)」が制定され、一般市民向けの公的文書をプレインランゲージで記述することが義務づけられました。すべてが完璧に実践されているわけではありませんが、過去20年間で政府文書の質は確実に向上しています。

プレインランゲージには時間や費用の節約というメリットがあります。以下に2つの実例を挙げます。

  1. VBAは、ある案内文書の改善効果を確認するため、問合せ電話の件数を追跡しました。元の文書を1年間に750通送付したところ、1,128件の問合せを受けました。つまり、1通の文書につき1回以上の問合せを受けていることになります。翌年、プレインランゲージ版の文書を710通送付すると、問合せは192件に減少しました。これはVBAにとって大きな経費削減となりました。また退役軍人にとっても、内容がより理解しやすくなりました。この数字はVBAの一部署の一つの文書に関するものにすぎませんが、VBA全体では年間、数百万通の案内文書を送付しています。
  2. 配送サービス企業フェデラルエクスプレスは、元々あった業務マニュアルをプレインランゲージで書き換えました。従業員が元のマニュアルから情報を探すのに平均5分必要であり、正確な情報を見つける確率は53%でした。プレインランゲージ版のマニュアルでは、検索時間は平均3.6分に短縮し、正確な情報が見つかる確率は80%に増加しました。これにより、効率的な業務運営とコスト削減が実現しました。

読者はプレインランゲージを好みます。また、その内容が正確に理解される可能性も高まります。以下はその2例です。

  1. あるロースクールの教授は、約1,500人の弁護士にアンケートを行い、伝統的な法律用語とプレインランゲージで書かれた段落のうち、どちらを好むかについて調べました。回答者の80%以上がプレインランゲージを選びました。
  2. 連邦通信委員会(ラジオ、テレビなどマス・コミュニケーション・メディアを規制する組織)は、市民ラジオに関する規則文書をプレインランゲージで書き替えました。元の文書では読者は20個の質問に答えるのに平均2.97分かかり、正答数は平均10.66でした。プレインランゲージでの文書を読んだ人は、20個の質問に答えるのに平均1.62分しかかからず、正答数は平均16.85に増加しました。また、読者に文書の難易度を5段階で評価してもらったところ、元の文書は4.59、プレインランゲージの文書は1.88でした(5は「非常に難しい」を意味します)。

これらの例をはじめ、多くの事例がプレインランゲージで作成された文書の効果を明らかにしています。プレインランゲージは組織や利用者に時間と費用の節約をもたらします。また、読者からの評価も高く、結果として効果的なコミュニケーションを実現しています。

* Scribes Journal of Legal Writingに掲載されたJoe Kimble教授の1996-1997年の論文「Writing for Dollars, Writing to Please」から実例を引用しています。