プレインランゲージとブランド構築の関係
1. はじめに
プレインランゲージは、サービス企業、とりわけ法務サービスを提供する事業者にとって必要不可欠な要素です。また、トリプルボトムラインの報告、透明性や説明責任を確保するためにも重要です。
あなたが書く文書からは、組織のブランドイメージがうかがえます。人は、文書を読むときに、書き手が文字で主張していること(例えば「革新的である」や「顧客中心である」など)が、実際にそうであるかを無意識のうちに確認します。
あなたの組織が公表している文書は、組織のブランドイメージを高めていますか?
すべての情報を包み隠すことなく開示することがより強く求められるようになるなか、ここでもプレインランゲージは重要な役割を果たします。明確に伝える必要があります。
明瞭な文章を書くことは、多くの点で文書の改善につながります。正確性、確実性、精度が向上し、書き手、読み手の双方に大きなメリットを生みだすほか、文書の目的を果たすことができます。
2. 言葉遣い
私たちが話をするときに、相手や目的(誰に、何のために話をするのか)に合わせて、言葉遣いを変えます。例えば、ペットに話しかけるとき、母親に話しかけるとき、上司に話しかけるとき、そして開業弁護士であればクライアントに話しかけるとき、それぞれ異なる言い方を使います。弁護士は、クライアントのタイプによっても、話し方を使い分けるでしょう。
同時に、相手が同じでも目的によって異なる話し方をします。法律事務所に勤務する弁護士が、マネージングパートナーに話しかけるときの言葉遣いを例に挙げてみましょう。
- 社交の場で、事務所が新規クライアントのために大勝負に出て勝ったことを自慢気に語る。
上記の場合の話し方は、同じ弁護士が以下の場合で話すときとは全く異なります。 - 年に一度の人事考課で、25%のボーナスと30%の昇給を求め、年に2、3カ月ロンドンのオフィスで仕事ができないか、またその際にビジネスクラスを使用できるようにお願いする。
話し方には、相手や目的が大きく影響しています。
しかし、多くの弁護士が文章を書くときには、「誰が」「なぜ」ということを考えずに書いてしまいます。そして、キーボードに指を置いたり、音声レコーダーを手に取って、ひたすら書き続けるのです。弁護士の場合、「仕事上の言葉遣い」が主流になることが多くなります。かなり重く、堅苦しく、慣習的で、人間味のないものになりがちです。文章を書くとき、ほとんどの弁護士は、自動的に「仕事上の言葉遣い」をしてしまうのです。
- 大手企業のクライアントに、陪審員が1億5,000万ドルの賠償金の支払いを決定したことを伝えるための手紙を書く。
- 住宅を購入しようとしている小売店の顧客に、販売会社が些細な理由で契約の意図を無効にし、はるかに高い価格で第三者に住宅を売却したことを伝えるための手紙を書く。
- 法律事務所のクライアントが市場とのコミュニケーションに使用するための文書を書く。この文書は、法律事務所のブランドとしての口調でなく、クライアントのブランドとしての口調となるべきです。
多くの弁護士は、自分の仕事上での言葉遣いに誇りを持っています。自信をもつことで、正真正銘の弁護士であることを実感できるのです。個人的なことですが、法学部の最終学年のとき、友人が新聞で読んだ法律問題について私に質問したときのことを今でも覚えています。なんと、私はその答えを知っていたのです。そして、もっと嬉しいことにそれを彼に説明したとき、自分でも「まるで弁護士のようだ」と思ったのです。この時の安堵感、つまり「これなら自分にもできるかもしれない」という気持ちは計り知れないものがあります。
弁護士に限らず、多くの人が「仕事上の言葉遣い」を持っています。
私たちの多くは、自分の仕事上の言葉遣いをよく理解しています。特に、不適切な状況下でその話し方を始めると、自分で気づきます。例えば、社交の場でリラックスしているときに、自分の専門分野に関連する質問をされたとします。突然、専門的な相談を受けたことで、自分では意識していなくても、仕事上の言葉遣いになってしまうのです。最初に気づくのは、頬に少し違和感を覚え、言葉がうまく出てこないことです。次に気づくのは、あなたが話している相手が突然、何を言われているのかわからない困惑した表情をしていることです。それは仕事上の言葉遣いだからです。
私たち弁護士は、弁護士になるまでの過程で、仕事上の言葉遣いを身につけます。そして、その言葉遣いが読み手や文書の目的にどれほど不適切であっても、ほぼすべての文章に使用します。
なぜ仕事上の言葉遣いを習慣的に使うのでしょうか。プロフェッショナルな響きを求めているからでしょうか?しかし、「プロフェッショナルな文章」とは何かを考えてみても、実際には何も見えてこないのです。具体的に何をすればプロフェッショナルな文章が書けるのかがわからないのです。その結果、「堅苦しく」で「慣習的」な方法が「プロ」であるという考え方につながってしまいます。しかし、「堅苦しい」+「慣習的」=「プロフェッショナル」という公式は成り立ちません。実際には、「堅苦しい」+「慣習的」=「尊大で時代遅れ」になってしまうのです。温かく、人間的で、親しみやすく、明確でありながら、確実にプロの手紙を書くことは可能です。
次は、ブランドについて考えてみましょう。
3. ブランド
コミュニケーションが飽和状態にある今日、組織の評判を確立するためにはブランドを確立する必要があります。ブランドとは、組織の本質、つまり、その組織が象徴するすべてのもの、そして競合他社との差別化を図るためのすべてのものを表しています。世界的な経営コンサルタント会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーの言葉を引用してブランドを説明しましょう。
ブランドは、消費者がその製品やサービスから想起する有形または無形の価値が複数組み合わさって形成されます。ブランド・エクイティを構築するためには、企業は2つのことを行う必要があります。1つ目は、自社製品を市場の競合他社製品と差別化すること、2つ目は、広告やマーケティングで自社ブランドについて語っていることと、実際に提供しているものとを一致させることです。
マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャーナル、1997年。『THE LEXUS AND THE OLIVE TREE(レクサスとオリーブの木)』HarperCollins 1999、p189でTHOMAS FRIEDMANが紹介しています。
ブランドの概念を理解するためにスポーツカーを例にとってみましょう。異なる3つのメーカーの主要モデル(モデル1、2、3)からスポーツカーを1台選ぶとします。メーカーは匿名で、車両仕様と性能基準に基づいて車を選びます。また、車の写真はありません。
これだけでは、なかなか車を選ぶことができませんよね。ただし、モデルAはコルベット、モデルBはアルファロメオ、モデルCはポルシェと言われたら、ほとんどの人はすぐにどの車を選ぶか決められるのではないでしょうか。ここでトルク比やウィジェットの要素などは気にしないのではないでしょうか?(個人的にはアルファロメオが好きです)。
メーカーの名前を知った瞬間に、どの車を買うかを決めることができるのが、「ブランド」の力です。ブランドは製品仕様や性能基準よりはるかに購買決定に大きな影響を及ぼす無形の資産です。
ブランドを構築・維持する上で重要なポイントは「統一感」です。マッキンゼー・アンド・カンパニーが上記の引用文で述べている「企業は、広告やマーケティングで自社ブランドについて語っていることと、実際に提供しているものとを一致させる必要がある」という部分が「統一感」となります。顧客やクライアントが手にした製品やサービスがその期待に沿うものでなければ、広告やマーケティングのすべてが台無しになってしまいます。つまり、ブランドを成功させるには、統一感とデリバリーが重要なのです。
ブランドの成功には、マーケティングや広告と企業が発行する文書の統一性も大切です。組織が作成あるいは使用する文書には、「ブランドの言葉遣い」が含まれるからです。
4. ブランドの言葉遣い
組織で文書によるコミュニケーションを行う場合、「ブランドの言葉遣い」を使います。
特に無形の製品(サービス)を提供する組織が成功するためには、ブランドの言葉遣いが何より重要です。例えば、次のような状況では、顧客(または潜在顧客)が唯一実際に体験できるのがコミュニケーションとなります。
- 購入の判断をしようとしている
- サービスの継続利用をするかを決めようとしている
- 製品の使い方を知ろうとしている
- プロのアドバイスを理解して生かそうとしている
つまり、組織の文書を読むと、そのブランドを想起します。その瞬間、ブランドを評価することになるのですが(真実の瞬間)、良い結果が得られないことがほとんどです。組織の文書は、堅苦しく形式的で人間味も面白みもなく、ブランドの基盤となる価値に沿っていないのです。
顧客を獲得し、維持するためにブランドを構築し洗練させるために、ロゴ、ビジュアル・アイデンティティ、広告などに莫大な費用をかけます。一方で、「ブランドの言葉遣い」にはほとんど注意を払っていません。しかし、消費者は仕事で忙しかったり、一日の終わりに疲れていたり、他のことをしたいと思っているため、「ブランドの言葉遣い」以外に触れることはありません。
「ブランドの言葉遣い」は、ビジュアル・アイデンティティやカスタマーサービス、受付の花などと同じように重視する必要があります。
そのための簡単な方法は、ブランド価値、ブランドの約束、ミッション、ビジョンなどに照らして文書を評価することです。
世界的な大企業からのシンプルな手紙を例にとってみましょう。私のかつての同僚が、大学での研究に使う情報をもらうために、その企業に手紙を書きました。その返事として送られてきた手紙を紹介します(申し上げておきますが、私の友人が依頼した情報は、決して秘密や貴重なものではありませんでした)。
X様
このたびは、[会社名]の資料をご請求いただきありがとうございます。また、弊社および弊社製品にご興味をお持ちいただき、誠にありがとうございます。
学生の皆様からの資料送付のご依頼を非常に多数いただいておりますため、弊社に関する個別の質問に対して詳細に回答することは致しかねます。しかし、マーケティング情報をまとめた資料をご用意しています。
なお、当社は[特定の企業]であるため、[特定の出版物]を作成する必要がないため、独自の情報となります。
学生向け情報パッケージは、弊社のウェブサイト[www.ウェブアドレス]の「All about [name of company]」からご覧いただけます。学生向けの情報は、すべてこのウェブサイトで入手できます。
インターネットにアクセスできない場合のために、現在の学生用パッケージのコピーを同封しました。
弊社について公開されている情報は、ほとんどが雑誌記事で得られるものです。公立または大学の図書館が所蔵している雑誌記事の年間インデックス『読者のための定期刊行物ガイド』をご覧になることを強くお勧め致します。
お問い合わせありがとうございました。他にお役に立てることがございましたら、[電話番号]までご連絡ください。
ここまで読んで、この手紙と企業に関する疑問点を考えてみましょう。ここで強調しておきたいのは、手紙の内容に問題があるわけではないことです。企業は学生からの質問にすべて答える必要はありません。私が懸念しているのは、そのスタイルです。
そこで、手紙についての疑問点です。
- この手紙を読んで、その組織についてどう感じましたか?例えば、一方の手で与えながら、もう一方の手で奪い取るような手紙だと感じました。そして最後の段落では、もっと情報を得るために電話をするように誘っていますが、それは書き手が読み手に望んでいないことなのです。また、弁解がましく、非人間的で、くどい手紙です。
- 手紙がどのような組織からかわかるでしょうか?判断が難しいですね。金融機関や政府機関かもしれません。
- 魅力的な組織でしょうか?全くそうではありません。
- その会社で働きたいと思いますか?製品を買いたいと思いますか?あまり思いませんよね。投資したいと思いますか?投資もあまりしたいとは思わないのではないでしょうか。
手紙は組織のブランドの言葉遣いを反映しており、組織の印象を明確に伝えます。
脚注に手紙の差し出し主の企業を記載しています。※1
この手紙を、この企業ブランドに対するあなたの認識と比べた時に、ギャップがありましたか?私はこの手紙をプレインランゲージのトレーニングで例として使用しています。コースの参加者のほとんどが、この企業に対する印象、つまりブランドと、この手紙から見える企業の姿との間には大きな隔たりがあると言います。
法務分野の例を考えてみましょう。数年前、私は全国規模の法律事務所のメルボルンオフィスに勤務していましたが、クライアントのためにシドニーオフィスに出向していました。ある金曜日の午後、シドニーオフィスのパートナーから助けを求める電話がありました。彼は、クライアントのために一連の文書を作成し、月曜日に納品する必要がありました。文書は、可能な限りシンプルにする必要がありましたが、すでに予算は大幅にオーバーしています。文書が十分に明確でないと感じていた彼は、文書をもっとわかりやすくするために編集してほしいと頼んできました。私は喜んで協力しました。
数時間後、書類は宅配便で届き、私宛にカバーレターが封入されていました。
拝啓
先ほどの会話の内容をご確認ください。書類を同封しました。引き続き、ご意見をお聞かせください。
敬具
[手書きでの会社の名前]
この手紙に私は非常に苛立ちました(苛立ちましたが、とにかく編集はしました)。
この場合、シンプルな手書のメモの方が私は嬉しくなります。例えば、「クリスへ。本当にありがとう。今度ランチをごちそうさせてくれ。[パートナーの名前]」のように。
弁護士が無意識に「仕事上の言葉遣い」を使って書いた手紙の典型的な例です。禅的な意味では、この手紙を書いた人は「その場」にいませんでした。遠くから読み手や目的について考えることもありませんでした。
5. ブランドの言葉遣いの重要性について
組織によっては、ブランドの言葉遣いが重要でない場合があります。例えば、リーバイスが広告やラベルにおいて手紙を書くのでなければ読み手はその書き方を気にすることはありません。
ブランドの言葉遣いが非常に重要な意味を持つ場合もあります。その一例がラジオ局です。ラジオ局のブランドの話し方が気に入らなければ、そのラジオ局を聴くことはないでしょう。ラジオ局が提供できるのはブランドの話し方だけなのです。
つまり、ブランドの言葉使いの重要度を相対的に示すスペクトルがあるとすればリーバイスとラジオ局はスペクトルの両極端をなすものです。
ラジオ局と同じようにブランドの言葉遣いが重要なのは、会計事務所、法律事務所、金融サービス機関、多くの政府機関、医薬品会社など、スタッフや顧客に指示書や製品マニュアルを提供する組織です。
このような組織では、ブランドの言葉遣いが基本的に重要です。あなたの会社とその顧客との関係を考えてみてください。顧客が会社の人間が書いた文書を読むときが、真実の瞬間です。その瞬間、重要なのは書き手が主題にいかに長けているからでも、文書がいかに取り扱いやすいからでもありません。顧客がその文書を使ってビジネスや生活に関する意思決定を容易に行うことができるかです。
文書が読み手にとって重要であるからこそ、その真実の瞬間が重要なのです。もしそうでなければ、読み手はその文書を読まないでしょうし、お金を払ってその会社に文書を書いてもらうこともないでしょう。
読み手が文書を読む瞬間は、ブランドにとって命とりになる瞬間にも、ブランドを高める瞬間にも成り得るのです。広告やマーケティング資料での企業の主張と、実際のコミュケーションが一致しているかどうかが試される瞬間になるのです。読み手は、会社の広告やマーケティングの宣伝文句が、会社のサービス提供方法を反映しているかどうかを「感じ取る」ことができます。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの言葉を借りれば、企業の行動やサービスの一環である文書が、企業の主張と「統一性」があるかどうかを認識することができます。もし、文書とブランドが一致していなければ、会社のブランドは傷つきます。しかし、文書とブランドが一致していれば、文書が読まれた瞬間にブランドが高まります。クライアントが、喜んでその企業を利用し、請求書に対する支払をし、次回も使用して、知人に紹介する可能性が高くなります。
市場とのコミュニケーションを文書に大きく依存している企業にとって、このような真実の瞬間は重要です。
6. 明瞭さとコーポレートガバナンス
個人としての、そして企業としての「ブランドの言葉遣い」において、マーケティング以上にプレインランゲージがますます重要になっています。またトリプルボトムライン報告の背景にある考え方においても不可欠です。この種の報告では、企業に率直で、透明性があり、あらゆる面で模範的な市民であることを求めています。多くの場合、改革や規制のテーマがすべての情報を包み隠すことなく開示することである時代においては、明瞭さが鍵となります。
明瞭さは財務報告書の中だけでなく、会計士がクライアントにビジネスの運営や生活の組み立てについてアドバイスする際にも求められます。
7. 明瞭さを欠いた状態では
不明瞭な文書が訴訟や賠償に繋がった例もあります。このようなケースを聞くたびに、裁判所や規制当局がコーポレートガバナンス文書の明瞭さの欠如に対処するまでに、どのくらいの時間がかかるのだろうかと考えてしまいます。
- オーストラリアの銀行の顧客が、保証に基づく支払いを免除されました。法廷弁護士が保証の最初の文の内容を裁判官に説明できなかったためです。その文は1,500語以上もあり、句読点もありませんでした。※2
- 裁判で勝訴したニュージーランドの保険会社が、同社の文書があまりにも意味不明だっただけの理由で、敗訴者の訴訟費用を支払わなければなりませんでした。
- 英国では、弁護士の手紙でのアドバイスをクライアントが誤解したために被った損失に関する裁判が行われました。アドバイスの手紙が非常に不明確であったことが、クライアントの誤解の原因だと認められ、弁護士は95,000ポンドの補償金を支払うことになりました。
8. スタイルの向上は、中身の向上にもつながる
人々は、プレインランゲージによって意味が明瞭になることを期待しています。しかし、プレインランゲージのメリットはそれだけではありません。文書の正確性、確実性、精度も向上します。実質的なメリットはそれ以上です。カナダのアルバータ州会計検査院のコミュニケーション・ディレクターであるメルワン・サヘル氏が次のように述べています。
この構造では、監査人が監査基準、監査上の検出事項、解釈を個別に設定しなければなりません。そのため、仕事が標準以下であると露呈することになります。つまり、明確で簡潔な文章にすることで、より多くの意見や証拠が必要であることが明らかになってしまうために、監査の厳格さに影響がでるのです。プレインイングリッシュを活用することで、根拠のない監査推奨事項が明らかになり、監査の質が高まります。
メルワン・サヘル氏
メルワン氏の指摘は、考察する価値があります。プレインランゲージは、コミュニケーションの核心でもあります。監査に関連するコミュニケーションを改善することで、アルバータ州会計検査院の職員は監査の質を向上させたのです。
9. 明確に書くための主な手順
私たちは、読み手や目的に合わせて文書のスタイルを調整する必要があります。1つのスタイルが、すべての読み手とすべての目的に適合することはありません。いくつかのヒントを紹介しましょう。※3/4/5
9.1 メッセージの受け取られ方に責任を持つ
発信したメッセージがどのように受け取られたか、書き手は責任を負わなければなりません。ただ発信するだけでは意味がありません。※6
9.2 読み手のための文章を書く
- あなたは誰に向けて書いていますか?友好的なクライアント、アドバイザー仲間、難しい交渉の相手、潜在的なクライアント、規制当局、同僚など、具体的に思い浮かべます。
- 読み手は何を知っているのか?
- 読み手は何を知りたいのでしょうか?
9.3 読み手について書こう
読み手は、自分自身について書かれた内容を読むことに興味があります。そのため読み手について書くようにすることも良案です。
自分のことを書くのではなく、読み手のことを書けているかを判断する方法があります。最近あなたがクライアントに書いた手紙と2色の蛍光ペンを用意します。
- 「We」、「us」、「our」など、書き手やその組織を指す単語やフレーズ(執筆者の組織名を含む)を1色で強調します。
- もう一方の蛍光ペンで、「you」や「your」など、読み手やその所属する組織を指す単語やフレーズ(読み手の組織名も含む)をすべて強調します。
そして、それぞれの色を使った回数を数えてみてください。あなた自身への言及1回に対して、読み手を2回以上言及していれば、読み手は満足するでしょう。
10対1の割合であれば、読み手の満足感は最高レベルに達するでしょう。また、あなたが本当に顧客を大切にしていることを示すことにもなります。
9.4 文書の目的を達成するために書く
あなたはなぜ文章を書くのですか?助言や説得、教育、マーケティングが目的でしょうか?それとも感謝の気持ちを伝えるためでしょうか。
それぞれの文書について、なぜ書くのかを考えてから、書き始めましょう。
9.5 読み手のためにアイデアを整理する
文章の構成で最もわかりやすいのは「起承結」です。ただし、読み手が本当に求めているのは「結論とほんのわずかな展開」です。文書を書いた後で、起承にあたる部分の情報は別ファイルに移し、添付情報とした方がいいかもしれません。
9.6 人が理解しやすいと感じる文章を書く
- 1つの文の中には1つの考えのみとします。
- 1文の平均語数は約20語
- 受動態より能動態を優先します。良い例「I prepared the accounts」、あまりよくない例「The accounts were prepared by myself」(最悪なのは「The accounts were prepared」です。誰が会計を準備したかが表現されていません)。
- 名詞形ではなく、動詞を使う。良い例「We applied on your behalf」、あまりよくない例「We made an application on your behalf」。applyは動詞で、applicationは名詞です。
- この他にも、明確な文章を書くためのガイドラインはたくさんあります。ここで紹介したヒントがよくわからないという方は、練習問題が載っているライティングの本を買って、練習してみてください。
10. 終わりに
組織のために文章を書く人は誰でも、その組織のブランドの言葉遣いを身につけていることになります。書き手はブランドの言葉遣いの管理人であり、擁護者であり、後見人なのです。そして、組織によっては、ブランドの言葉遣いが非常に重要な意味を持っています。
文書のスタイルが組織に役立っているのか、それとも妨げになっているのかを判断するためには、組織のブランド価値に照らして文書を評価する必要があります。
その測定方法はとても簡単です。まず、組織のスタッフに文書についてのコメントを求めます。「言葉が多い」、「堅苦しい」、「重い」、「くどい」、「つまらないよりひどい」などのコメントが返ってくると思います。時には、それ以上のことを言われることもあります。もらったコメントを組織のブランドの約束、価値、ミッションなどと比較してみてください。通常、もらったコメントとブランドの間には大きなギャップがあります。
評価後、次のことを検討する必要があります。
- 「ブランドの言葉遣い」はどれだけ重要か?
- 自分たちの「ブランドの言葉遣い」が、実際の「ブランド」と一致しているか。
- 「ブランドの言葉遣い」がどれだけうまく管理されているか。
- 読み手のメッセージの受け取り方について、組織の誰が責任を負うのか。
- 明瞭な文書を作成することが、組織の成功につながるか。
(脚注)
※1 その手紙は、衣料品メーカーのリーバイス社からのものでした。
※2 Houlahan v ANZ Banking Unreported, ACT Supreme Court, Higgins J., 16 October 1992.
※3 Commercial Union v Patchell (1993) 7 ANZ Ins Cases 61-171.
※4 Sopcen Trustees Ltd v Wood Nash & Winters Unreported, Queens Bench Division, Jupp J., 6 October 1983.
※5 2002年9月にトロントで開催されたPLAINの「At the Heart of Communication」会議の後、著者に宛てた個人的なメール。
※6 自分のメッセージがどのように受け取られるかに責任を持つ」必要があるという考えは、ブランディング・コンサルタント会社EnterpriseIGのプリンシパルだったジュリアン・カニーのものです。