日本発!『ヘルシンキ宣言』のビフォーアフター

前回のブログでは、ヘルシンキ宣言をプレインランゲージに書き換える活動についてお話ししました。

言葉の壁を取り払うこの画期的な試み、ぜひ実際の論文でその鮮やかな変化を体験してみてください。

難しい医学用語が、私たちの日常の感覚に近い「プレインランゲージ」に書き換えられています。

論文はこちらです。栗原千絵子 他(2024)『わたしたちのWMAヘルシンキ宣言 ─ 患者・市民の意見と提案 ─』臨床評価 52(1)

※書き換えの例は10/41ページ以降にあります。

橘川 真澄
(JAPL理事)

『ヘルシンキ宣言』って何??

『ヘルシンキ宣言』は、人を対象にした医学研究を行うときの「倫理の基本」をまとめた文書です。

医師の団体が医師のために作ったもので、研究の現場では大切にされています。

しかし、一般の人にはあまりなじみがなく、研究への参加をお願いされたときに渡される説明書で、初めて名前を目にする方が多いと思います。

実はこの宣言、専門用語が多くて、とても難しい内容です。

読む人が理解しづらいままでは、「研究に参加します」と自分で納得して決めることができない。医療に関する大事なことをもっとわかりやすく伝えたい。

こうした思いから、この難しい文書を、誰もが理解できる「プレインランゲージ」に書き換える画期的な活動が進んでいます。

2024年にはその成果が論文として発表されました。

単に言葉を置き換えるだけではなく、「説明を受ける立場の人の視点」を取り入れているところが特徴です。

日本から始まったこの試みは、医療を「専門家だけのもの」から「みんなのもの」にするための大切な一歩と言えるでしょう。

ご参考:再考 ヘルシンキ宣言

橘川 真澄
(JAPL理事)

AIは「空気」を読める?!

OpenAIは2026年1月15日に「ChatGPT Translate」を公開しました。

プレインジャパニーズのガイドラインの一つに「対象読者を明確にする」というものがあります。

同社の説明によると、最大の特徴は4種類のトーン調整で「ビジネスから子ども向けまで、対象読者に合わせて、文章の雰囲気を変えられる」とのことです。

AIがどこまで「空気」を読んだ自然な訳文を届けてくれるのか、試してみたいと思います。

ご参考:ChatGPT Translate

橘川 真澄
(JAPL理事)

行政情報の「わかりやすさ」が変わる!デジタル庁が策定を進めるプレインランゲージの新基準

デジタル庁が策定を進めている「ウェブコンテンツガイドライン案」では、プレインランゲージを言語・文章構成の重要な柱の一つとして位置づけています。

これは、特定の専門知識がなくても、義務教育を修了した人であれば誰でも内容を理解できる表現を用いるという考え方です。

利用者のニーズに合わせ、難しい法律用語を平易な言葉に言い換えたり、解説を添えたりすることで、情報の受け手が感じる「負担」を削減することを目指しています。

この指針は、単に言葉をやさしくするだけでなく、行政情報の信頼性を高め、誰もが必要な情報にたどり着ける環境を整えるために導入されます。

現在は策定に向けた案の段階ですが、今後の政府ウェブサイトにおける情報発信のあり方を示す、重要な公的指針となることが期待されています。

ご参考:デジタル庁 ウェブコンテンツガイドライン案 (2025年1月21日) 9.2 プレインランゲージ(P22

橘川 真澄
(JAPL理事)

投資家の心をつかむ「伝わる言葉」:信頼を築く情報開示の秘訣

多くの企業が開示する報告書は、専門用語や複雑な表現のために、読み手にとって高いハードルになりがちです。しかし、情報を明瞭な言葉(プレインランゲージ)で伝えるだけで、読者の理解スピードや記憶への定着率は大きく向上します。

「わかりやすさ」がもたらす価値

研究データによれば、プレインランゲージで書かれた文章は、読み手に負担をかける硬い表現を用いたものに比べ、読者の理解スピードを劇的に高めることが示されています。また、文章が明快であるほど、その企業は「誠実で信頼できる」とポジティブに評価される傾向にあります。たとえネガティブな情報を共有する場合でも、透明性の高い伝え方は、読者の信頼や確信を得るための大きな助けとなります。

3つの改善策

「最初のページ」を戦略的に使う: ほとんどの読者が目を通す冒頭部分に、最も重要なメッセージを配置します。

視覚的な工夫を取り入れる: 図解、チャート、適切な色使いなどを活用し、直感的に内容が掴めるようにします。

論理的で簡潔な構成: 文章を区切り、拾い読み(スキャン)しやすい構造を意識します。

情報をわかりやすく整えることは、単なる編集作業ではなく、投資家との良好な関係を築き、持続的な支持を得るための「戦略的な投資」といえます。

ご参考:Why And How To Use Plain Language In Your Corporate Disclosure(Forbes誌)

橘川 真澄
(JAPL理事)

第一生命経済研究所が解説:「プレインランゲージ」が実現する誰もが取り残されない情報社会

第一生命経済研究所は、外国人や障害のある方など多様な人々に情報を確実に届けるための「わかりやすい日本語」の動向をまとめたレポートを2024年に公開しました。

本資料では、迅速かつ正確な意思疎通を支える世界標準のコミュニケーション手法である、プレインランゲージやJAPLについても触れています。

大手シンクタンクである同研究所がこの概念を明文化したことは、日本社会におけるプレインランゲージの認知と普及を一層加速させる重要な意義を持っています。

ご参考:多様な人にわかりやすい日本語とは?~ガイドライン類の比較を通じて~

橘川 真澄
(JAPL理事)

「中2レベル」が世界を動かす?久米宏に学ぶプレインランゲージの極意

「アメリカの大統領演説は、中学生にもわかるレベルを目安に磨き上げられている」ことが多いと言われます。

難しい言葉を振りかざすのではなく、誰にでも届く表現を選び抜くことこそ、本当の知性のあらわれではないでしょうか。

かつて久米宏さんも「中学生にわかる」を掲げ、模型などの視覚効果を駆使して、難解なニュースを身近なものへと変えました。 

記者が書いた紋切り型の原稿を、血の通った自分の「話し言葉」へと徹底的に手直しするこだわりが、視聴者の心を掴んだのです。 

専門用語という壁を壊し、相手の心に真っ直ぐ届く「等身大の表現」を選ぶこと。そこにこそ、伝える側の真摯な思いが宿ります。

ご参考:久米宏さん、テレビ史を変えた「ニュースステーション」の功績…「中学生でもわかる」視覚主義、報道のショー化

橘川 真澄
(JAPL理事)

難しい専門用語を捨てる勇気。いざという時に「迷わせない」プレインランゲージの力

誰にとってもわかりやすい「プレインランゲージ」は、日常の安心を支える大切な要素でもあります。

JA共済アプリのリニューアルでは、専門用語を徹底的に取り除き、誰もが直感的にわかる言葉遣いへと刷新されました。

その結果、若者から高齢層まで「使いやすい」という声が広がり、登録者数は130万人を突破しています。

プレインランゲージを軸にしたデザインは、国内外のデザイン賞を受賞するなど、世界的に高く評価されています。

ご参考:防災も手続きも、スマホで完結。世界が認めた「JA共済アプリ」が届ける”日常の安心

橘川 真澄
(JAPL理事)

AIも人も「一読」で理解できる文書へ。トヨタに学ぶプレインランゲージの重要性

サステナブル・ラボ株式会社が発表した「AIフレンドリー統合報告書ランキング」は、人だけでなくAIも読者になる時代の到来を示しています。

統合報告書の「AI可読性」は、投資家やステークホルダーの目線だけでなく、情報の構造や明確さ、つまりプレインランゲージの本質に深く関わります。

見出し階層を整理する、論理的に構成する――これらは「読みやすさ」を高めるだけでなく、AIにも理解しやすい文書をつくる第一歩です。

AI可読性ランキングで首位となったトヨタ自動車は、まさにこの点で高い評価を受けました。

ご参考:『AIフレンドリー統合報告書ランキング TOP50(2025年版)』、首位はトヨタ自動車 サステナブル・ラボ調べ

橘川 真澄
(JAPL理事)