知的財産部の方々とプレインランゲージについて話をしました

軽電子機器協議会にお招きいただき、各社の知的財産部の方々とプレインランゲージについて話した。

学校教育で「特許は独占権」と教えられているが、知的財産部の方々が気づいている通り、特許は知的財産権に関わる交渉を有利に導く道具に過ぎない。独占権という誤解を突いて新規株式上場(IPO)の際に「強力な自社特許」をうたうベンチャー企業があるが、これは投資家に過剰な期待を抱かせる恐れがある。

そんな話をしたうえで、僕はプレインランゲージ国際標準を紹介した。投資家を含め一般読者に対するコミュニケーションは「読者は必要な情報を入手できる」「読者は必要な情報を簡単に見つけられる」「読者は見つけた情報を簡単に理解できる」「読者はその情報を使いやすい」という四原則に沿う必要がある。プレインランゲージ国際標準はこれら四原則の詳細を提示する。

これに対して、「一般読者どころではなく、社内の研究者とコミュニケーションをとる際にも、プレインランゲージが必要だ」という反応が知的財産部の方々から返ってきた。確かにそうだ。「クレーム」は「苦情」ではなく「特許請求の範囲」の意味である。突然、「クレームを見直してほしい」と言ったら、研究者は戸惑うだろう。

科学技術に関する情報を広く国民に向けて提供する科学コミュニケーションでは、情報は倫理的に提示しなければならない。一方的な立場や解釈を立つことなく、データはフェアに、バイアスなく提示する必要がある。例えば、ワクチンについて話すなら、効果と共に副作用についても公正に伝えるのがよい。

主要国首脳会議(G7)科学技術担当大臣会合(仙台、2023年)で、科学コミュニケーションについてワーキンググループ(WG)を設置することになった。ワクチンやAIについて正確な情報が国民に伝わらないという課題にG7各国が懸念し、WGが設置されたのだ。どのようなテーマをどのように伝えるかを検討するのがWGであって、一方、情報提供の手法はISOのプレインランゲージ標準化グループで国際標準化が進んでいる。両者が連動することで、科学コミュニケーションは改善されていく。先に触れた「情報は倫理的に提示する」は現在検討中の国際標準案にある一文である。

広く国民に向けた科学コミュニケーションについても、知的財産部の方々に理解していただいた有意義な会合となった。

山田 肇
(特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム理事長/工学博士/東洋大学名誉教授 /JAPL理事)

情報発信はコンパクトに

1月29日に東京都主催の「アクセシブルツーリズム推進シンポジウム」に登壇した。今年は東京で耳が聞こえない、聞こえにくい人たちのオリンピック(デフリンピック)が開催される。急増するインバウンド旅行客も日本語音声は理解できない。これらの人向けに文字による情報提供を呼び掛けたうえで、「情報発信はコンパクトに」と、プレインランゲージ原則について話した。

観光庁は「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」を2024年に公表した。文字による情報提供については、次のように推奨されている。

  • 名称・標識・サイン・情報系は、提供情報が明らかに訪日外国人旅行者にとって利用価値が低い場合を除き英語併記を行うことを基本とする。
  • 施設特性や地域特性の観点から、中国語又は韓国語等の表記の必要性が高い施設については…中国語又は韓国語を含めた表記を行うことが望ましい。

京成スカイライナーの車内表示板は、行き先が日本語、英語、中国語、韓国語で順番に表示する。日本語がわからない旅行客が多いから、まさに施設特性に基づく情報提供である。

都心を走る電車でも、四か国語で次の停車駅を表示している場合がある。しかし、次の駅まで二分の電車で中国語や韓国語表記をしていると、情報の取得に時間がかかりすぎ、降りられなくなる恐れが生じる。

情報発信は、それを受ける人の目的を満たすようにコンパクトに行うのがよい。ユニバーサルスタジオシンガポールには、ボートに乗って流れを進むアトラクションがある。このアトラクションの入り口には、「濡れるよ、びしょ濡れかも」と英語と中国語で書かれている。黄色背景に黒字という目立つ表示で、文字サイズも大きい。その下には、ポンチョ売り場やロッカーの案内が小さく書かれている。コンパクトな情報発信の好事例である。

山田肇
(特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム理事長/工学博士/東洋大学名誉教授 /JAPL理事)
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