なぜ結論を文章の先頭に置くのか?

はじめに

 プレインランゲージでは「結論を文章の先頭に置く」ことを推奨しています。なぜなのでしょうか?その理由の一つを考えてみました。プレインランゲージの推奨に従い、結論から述べます。

「それは、筆者が文章に込めた意図を、読者が事前に把握していた方が、読者が文章をわかりやすく効率的に理解できるからです。」

 この結論に至る道筋を順を追って説明します。まず、読者がどのように文章を理解しているのか?その方法・過程を考えます。

読者の文章理解の仕方

 読者の文章理解の仕方には2つのやりかたがあります。ボトムアップとトップダウンです。読者は、ボトムアップとトップダウン両者を使い分け文章を理解していると考えられています。「読者が文章全体の半分弱の文でトップダウン理解を行っていた」という実験報告もあります。

①ボトムアップとは

 ボトムアップは文の先頭から順番に一つ一つ語を読み、その意味や機能を把握し、それらを逐次組み立てて文の内容=筆者の意図を徐々に理解して行く方法です。逐次的なので理解に時間がかかります。

②トップダウン

 トップダウンは予測を使用します。ここでいう予測とは、「読者が文章をその文まで読んできて疑問に感じていることやさらに知りたいと感じていることを、これから読む後続の文/文脈が解決するのを期待(予測)する」ということです。読者は先行文脈等から、これから読む文に何が書かれていそうか、あらかじめある範囲を予測し、その予測を利用して個々の文の理解を助けます。予測が当たった場合、読者はすでにその文を受け入れ理解する準備ができており効率的な理解が可能です。ただし、予測が外れた場合、読者は混乱し予測をやり直すか/ボトムアップに変更することになり、効率的な理解はできなくなり、わかりにくい文となります。

(注)読者の文章理解の仕方については、石黒圭著「文章予測」の解説を参考にしています。

わかりやすい文章にするには

 読者の文章理解の仕方から、わかりやすい文章にするには、読者がトップダウンで「正しい予測」ができるように文章を構成すれば良いことがわかります。ここで「正しい予測」とは、筆者がその文章/文で意図したことと同じことを読者が予測することです。

従って、筆者の意図=結論をその文章の最初に置けば、筆者の意図が読者により早く伝わるので、読者の予測が筆者の意図と一致する可能性が高くなり、読者にとってわかりやすい文章となる可能性も高くなります。

予測のシミュレーション

 2つ文章例で予測がどう働くかシミュレーションしてみます。

文章1と文章2は同じことをいっていますが、文の順序が異なります。文章1は結論を最初に置いています。文章2は結論を最後に置いています。

文章1

①AはCである。

②なぜならば、AはBであり。

③BはCだから。

文章2

④AはBである。

⑤BはCである。

⑥故にAはCである。

文章1の予測シミュレーション

①が読者にとって未知の場合

 読者は①を読んでそれは未知なことなので「なぜ?どうして?」という疑問が湧き、②以降でその説明があることを予測(期待)します。この予測は当たります。つまり、②以降の文章に対しトップダウン理解ができ、②、③の各文を受け入れる準備ができるので効率的な理解ができます。

①が読者にとって既知の場合

読者は①を読んでそれは既知のことなので「そうだよね。」となり、予測は生ぜずボトムアップとなりますが、②を読んだ時点で最初にある「なぜならば」という接続詞により、②以降が①に関する説明であることが予測でき、②、③に対するトップダウン理解ができます。

つまり、①が既知/未知いずれであっても、予測があたり、②以降の文章に対しトップダウン理解ができ、②、③の各文を受け入れる準備ができるので効率的な理解ができます。

文章2の予測シミュレーション

④が読者にとって未知の場合

 読者は④を読んでそれが未知なので「なぜ?どうして?」という疑問が湧き、⑤以降でその説明を期待(予測)しますが、その予測は④に対する説明が⑤以降にないので外れます。

④が読者にとって既知の場合

 読者は④を読んでそれが既知なので「そうだよね。」となり、予測は生ぜずボトムアップ理解となります。

つまり④が既知/未知いずれであっても予測は外れるか、または予測は生ぜずボトムアップ理解となります。

おわりに

 単純な例で説明しましたが、実際の文章は①〜③/④〜⑥以上に複雑で文字数も数百字以上になります。種々の予測が数多く発生するはずです。

そのような場合、文章全体に対する筆者の意図を把握した上で各文を読むのと、把握せず各文を読むのとでは理解の程度、理解に要する時間、ともに大きな差が出るはずです。

これが、プレインランゲージが、結論を先頭に置くことを推奨する理由の一つであると考えます。

  • 皆さんはどのようにお考えでしょうか?
中村新一
((株)エイアンドピープル 顧問)

演説はサビから始めよう

気候変動に関する国際連合の会議(COP28)での岸田文雄内閣総理大臣の演説は評価されなかった。総理大臣は「Action to Zero led by Japan and UAE」と題して演説したが、各国NGOは日本に「化石賞」を与えると発表した。

総理演説は「日本の技術が大きく貢献できる」というが、どんな技術で貢献するか具体性がなかった。

人工光合成技術は国際コンペティションで一位を取り、特許競争力調査でも評価が高いという。「日本が世界に秀でる人工光合成技術を普及し、各国の気候変動対策に貢献する」と、具体的に演説したら「化石賞」の不名誉は避けられたかもしれない。

「愛は勝つ」で知られる歌手KANが亡くなった。追悼の多くが、この歌がサビから始まることに言及していた。懐メロになればなるほどサビしか覚えていないから、Aメロ、Bメロから始まっても思い出せない。サビから始めればピンとくる。

プレインランゲージの原則は読者を明確に定めること。そして結論を文頭に置くこと。サビから始まる「愛は勝つ」は多くの人々に愛された。総理大臣もサビ「人工光合成技術で世界に貢献」から演説を始めればよかったのだ。

山田 肇
(特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム理事長/工学博士/東洋大学名誉教授 /JAPL理事)
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